とうとう、最初の宝玉の目の前に来た。
本当に、この小さな玉を集める事がすべてを思い出すことに繋がるのかな。
学園での記憶も、霞がかったもやの中のようで、白黒の映画を見ているような感覚。
宝玉を集めれば、この景色もはっきりとした記憶になるのかな…。
今はこんなにも届かない遠い情景だけれど、とても懐かしくて…。
だから、ボクは目の前のこの人と戦って、最初の宝玉を…。
――――――――――――――――――
呼吸をするように音も立てずに小太刀を抜き放つと、それはもはや身体の一部のように手に馴染んだ。
「大丈夫…これならいける」
前の男に集中する。
後ろには、一緒に戦ってくれる仲間がいるということが、畝傍をそうさせてくれる。
こうして戦う事は、学園でもあったのかな。
ふと一瞬そんなことを考えたが、それは畝傍の宝玉への思いを強くする雑念であったから、不利になることではなかった。
2007年10月06日
第3幕
「今日は質問はないのかね?」
「どうせ、ボクがほしい答えはくれないんでしょ?」
聞けば煙に巻き、力ずくで聞き出そうとしてもひらりと身をかわして消え去るのだ。
「君が今一番知りたいと思っていることは、君自身が自分で見つけ出さなければ、価値の無いものだよ。」
「今日は何をしに来たの?」
「何って、君にお祝いをね、言いに来たんだ。」
「お祝い?」
「そう、初勝利のね。」
「うん、良く出来ているじゃないか。」
かちゃりという食器の音にあせって振り向く。
「それ、ボクの!」
あわててスープの皿を男の前から自分の手前に引き寄せた。
「食べないんだろう?残していたんじゃないのかい?」
銀色のスプーンをぺろりと嘗めて、男は相変わらずのニヤニヤとした笑顔で言った。
「熱かったから、冷めるのを待ってたんだ。」
そう言って畝傍はぺろりとスープを嘗める。
「……熱い。」
この男は、多分、常に監視しているのだ。
どこにでもいるし、いつでも見ている。
「どうせ、ボクがほしい答えはくれないんでしょ?」
聞けば煙に巻き、力ずくで聞き出そうとしてもひらりと身をかわして消え去るのだ。
「君が今一番知りたいと思っていることは、君自身が自分で見つけ出さなければ、価値の無いものだよ。」
「今日は何をしに来たの?」
「何って、君にお祝いをね、言いに来たんだ。」
「お祝い?」
「そう、初勝利のね。」
「うん、良く出来ているじゃないか。」
かちゃりという食器の音にあせって振り向く。
「それ、ボクの!」
あわててスープの皿を男の前から自分の手前に引き寄せた。
「食べないんだろう?残していたんじゃないのかい?」
銀色のスプーンをぺろりと嘗めて、男は相変わらずのニヤニヤとした笑顔で言った。
「熱かったから、冷めるのを待ってたんだ。」
そう言って畝傍はぺろりとスープを嘗める。
「……熱い。」
この男は、多分、常に監視しているのだ。
どこにでもいるし、いつでも見ている。
第2幕
夜は好きだ。
昼間のようにまぶしくないから。
だから、みなが寝静まった夜中にそっとキャンプを抜け出すのも、畝傍にとっては自然な行為だった。
特に目的も無く少しだけ歩き、月が良く見える場所を見つけると、そこには人間や危険な生き物の気配は無かった。
あの男は、ボクのことを知っている。多分、ボクがこの島にいる理由も目的も…。
だからあの男が言うように、遺跡外のキャンプで仲間を探し、舞踏会とやらに参加することにしたんだ。
男の言う王子様が、どうやら宝玉というもののことだというのは程なくしてわかった。
ボクは、宝玉が欲しくてこの島にやってきたのだろうか…。
そういう使命を受けていたのだろうか…。
よくわからない。
刀が収められた手甲だけキャンプをでるときに身に付けて来ていたので、なんとはなしに手首をひねって柄を握る。
鍔元に付けられたトリガーを絞ると、プシュと小さな音を立て、縦に割れるように鞘が開いた。
右腕に付けられた刀は右手で、左腕に付けられた刀は左手で、各々片手だけで簡単に抜刀できるようになっているようだ。
構えて…斬りあげる。振り下ろす。
しばらくそうして刀の具合を確かめ、再び手首をひねり、峰から鞘に刀をしまうと、かちりという音がして鞘はぴたりと閉じトリガーが固定された。
うん、問題はなさそうだ…。
ころころと何かが草の上を転がる音がして、足に当たった拳大の物は、月明かりに照らされた真っ赤なりんごだった。
拾い上げると、待ち構えていたように声が響き渡る。
「私があげたドレスとガラスの靴は、どうだい?ぴったりだろう?」
崩れかけた石壁の上に、見覚えのあるシルエットが月を背景に佇んでいた。
男は、しゃりっしゃりっと音を立てて、手にしたりんごをほおばっている。
「おま…え!」
逆光に照らし出された男は、立ち上がって恭しく礼をする。暗くてよくは見えないが、相変わらずニヤニヤと笑っているようだ。
「あんた、ボクのなんなんだ?ボクがこの島に来ている理由も全部知ってるんでしょう?」
しゃりっ
「おお、イヴ。人間は、神から与えられた食べ物ではなく、自らの手でこの実を木からもいだがゆえに、知恵を手に入れる事が出来たのだよ。」
しゃりっ
良くとおる声だ。
身体の動きが戻ってきた今なら…。
手首をひねって刀を抜く。
次の瞬間、月がかげり、刃の反射も畝傍の白い肌も髪も、周囲のすべてが何もかもが黒く染まる。
月が顔を出したとき、石壁の上に男の姿は…なかった。
「イヴ、知恵のみは自分の手でもいできたまえ。そのかわり、その林檎は君にあげよう。」
いずこともなく響く男の声。
畝傍は一飛びで石壁の上に立ち、辺りを見回すが、そこには人間や危険な生き物の姿はなかった。
ただ、石壁の上に食べ終わった林檎の芯だけが、月明かりにぽつんと照らされていた。
昼間のようにまぶしくないから。
だから、みなが寝静まった夜中にそっとキャンプを抜け出すのも、畝傍にとっては自然な行為だった。
特に目的も無く少しだけ歩き、月が良く見える場所を見つけると、そこには人間や危険な生き物の気配は無かった。
あの男は、ボクのことを知っている。多分、ボクがこの島にいる理由も目的も…。
だからあの男が言うように、遺跡外のキャンプで仲間を探し、舞踏会とやらに参加することにしたんだ。
男の言う王子様が、どうやら宝玉というもののことだというのは程なくしてわかった。
ボクは、宝玉が欲しくてこの島にやってきたのだろうか…。
そういう使命を受けていたのだろうか…。
よくわからない。
刀が収められた手甲だけキャンプをでるときに身に付けて来ていたので、なんとはなしに手首をひねって柄を握る。
鍔元に付けられたトリガーを絞ると、プシュと小さな音を立て、縦に割れるように鞘が開いた。
右腕に付けられた刀は右手で、左腕に付けられた刀は左手で、各々片手だけで簡単に抜刀できるようになっているようだ。
構えて…斬りあげる。振り下ろす。
しばらくそうして刀の具合を確かめ、再び手首をひねり、峰から鞘に刀をしまうと、かちりという音がして鞘はぴたりと閉じトリガーが固定された。
うん、問題はなさそうだ…。
ころころと何かが草の上を転がる音がして、足に当たった拳大の物は、月明かりに照らされた真っ赤なりんごだった。
拾い上げると、待ち構えていたように声が響き渡る。
「私があげたドレスとガラスの靴は、どうだい?ぴったりだろう?」
崩れかけた石壁の上に、見覚えのあるシルエットが月を背景に佇んでいた。
男は、しゃりっしゃりっと音を立てて、手にしたりんごをほおばっている。
「おま…え!」
逆光に照らし出された男は、立ち上がって恭しく礼をする。暗くてよくは見えないが、相変わらずニヤニヤと笑っているようだ。
「あんた、ボクのなんなんだ?ボクがこの島に来ている理由も全部知ってるんでしょう?」
しゃりっ
「おお、イヴ。人間は、神から与えられた食べ物ではなく、自らの手でこの実を木からもいだがゆえに、知恵を手に入れる事が出来たのだよ。」
しゃりっ
良くとおる声だ。
身体の動きが戻ってきた今なら…。
手首をひねって刀を抜く。
次の瞬間、月がかげり、刃の反射も畝傍の白い肌も髪も、周囲のすべてが何もかもが黒く染まる。
月が顔を出したとき、石壁の上に男の姿は…なかった。
「イヴ、知恵のみは自分の手でもいできたまえ。そのかわり、その林檎は君にあげよう。」
いずこともなく響く男の声。
畝傍は一飛びで石壁の上に立ち、辺りを見回すが、そこには人間や危険な生き物の姿はなかった。
ただ、石壁の上に食べ終わった林檎の芯だけが、月明かりにぽつんと照らされていた。
第1幕 プロローグ
それは、少し時をさかのぼる。
パチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチ
ザザザー
パチパチ
ザザー
不規則なリズム。
耳障りで鬱陶しい・・・。
ザザー
パチパチパチ
曖昧だったその音がだんだんとハッキリしてゆくにつれ、聴覚以外の感覚が戻ってくる。
頬と腿にざらついた感触と、衣服の圧迫感。
強い潮の香りと、焼けるような暑さ。
最後に重いまぶたを開くと視覚が強い光を捉え、目の前を真っ白にする刺激に目を細めると、周囲の景色がだんだんと輪郭を見せてゆく。
「やぁ、やっと目が覚めたようだね。お嬢さん。」
少し首の角度を変え、声のする方向に目を向けると、そこには30代位だろうか?もっと上にも見える痩せた男が焚き火の前に座り、串に刺したケバケバしい魚を頬張りながらこちらを見ていた。
瞬時に跳ね起き、距離をとると男に対して身構えた。はずだった。イメージの中では。
無様に砂浜に顔から転げた格好から、ゆっくりと四肢に力を入れて上体を起こす。全身がだるい。
「無理をしないほうがいい。まだ身体がうまく動かないだろうから。」
お腹が空いているだろう?男はそう言って立ち上がると、歩み寄ってきて手付かずの焼き魚を一本、差し出してよこした。
「毒は入っていない。安心するといい。」
一瞬躊躇し結局空腹に負けたボクに、「もっとも、そういう警戒心は私としても君に求める物のひとつなんだがね」と言って満足そうに笑った。
殺すつもりなら既にいつでも殺せたろう。毒は入っていない。そう確信し、勢い良くカリカリに焼けた魚の腹にかじりつく。
「げほっ。カハッ」
しかし身体が食べ物を受け付けず、思わず砂浜に吐き出してしまった。
今度は慎重にゆっくりと噛み砕いて何とか一口だけ飲み込むと、周囲を見回す余裕が出来た。
白い砂浜。抜けるような青い空。蛍光ブルーの海。
どこか、南方の島の砂浜のようだけれど・・・。そこに倒れていたということは、海から流れ着いたのかな?
「ここは、どこ?お前は誰だ?」
お前は誰だ?
お前は誰だ?
その質問が、頭の端に違和感となってこびりつく。
お前は・・・。
「その質問の前に、まずは君自身が誰なのか確認しようじゃないか」
ボク?
ボクは・・・。
あ・・・。あ・・きや・・・ま。
「・・・・あ・・・き・・・。アキヤマウネビ。」
「そう、良く出来ました。君はNinjaMasterタイゴ=アキヤマの一子、ウネビ=アキヤマ。君の故郷風に言えば秋山畝傍。」
男は嬉しそうに笑うと、仰々しく両手を広げた。
そうだ、ボクは秋山畝傍。とある島に建つ巨大な学園に通うくのいち。今朝だって、寮から学園に・・・。
寮から学園に・・・。
その後が思い出せない・・・。
ここは学園のあった島とは、やはり違う場所のようだ。
寮からでたあと、どれくらい経ったのか。何があったのか・・・。
・・・。
「さぁ、招待状をどうぞ、シンデレラ。」
男の声がボクを思考の渦から引き戻した。考え込んでいた時間はほんの数秒だったのだろう。男は、胸元からとりだした一通の四角い白い封筒を手渡す。
封筒には、秋山畝傍という宛名に667とナンバーが刻印されていた。立ち上がり、招待状を受け取る。
「ではさっきの質問に答えようか。」
「ここはね、王子様のお城なんだよ。ここで開かれる舞踏会では、7人の王子様の目に留まろうと皆が必死でダンスを踊るのさ。」
芝居がかった動きで架空のパートナーを相手にターンをする。
「君は、これから王子様の舞踏会に参加するんだ。」
男は踊りながらボクを指差して、続ける。
「そのドレスとガラスの靴は、魔法使いからのちょっとしたプレゼントだよ。」
身に付けているドレスは砂浜に打ち上げられたにしては海水に浸かった様子もなく、手甲に取り付けられた脇差は新品のようにみえる。
「さぁ、お城は向こうですよシンデレラ。」
いつの間にか隣に立ち、男は森の奥を指差した。見ると炊事の煙だろうか?砂浜に隣接するように茂る森の奥に細い煙が数条、空へ向かって上っている。人もかなりの人数がそこにいるのか、わずかに雑踏が聞こえてくる。
「お行き、シンデレラ。かぼちゃの馬車とネズミの従者は、あそこで見つけるがいい。一人では12時の鐘を迎えることも、難しいだろうさ。」
遠くなってゆく男の声に振り向くと、男は消え、そこにはただ主を失った焚き火が変わらずにパチパチと不規則な音を立てるだけだった。
パチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチ
ザザザー
パチパチ
ザザー
不規則なリズム。
耳障りで鬱陶しい・・・。
ザザー
パチパチパチ
曖昧だったその音がだんだんとハッキリしてゆくにつれ、聴覚以外の感覚が戻ってくる。
頬と腿にざらついた感触と、衣服の圧迫感。
強い潮の香りと、焼けるような暑さ。
最後に重いまぶたを開くと視覚が強い光を捉え、目の前を真っ白にする刺激に目を細めると、周囲の景色がだんだんと輪郭を見せてゆく。
「やぁ、やっと目が覚めたようだね。お嬢さん。」
少し首の角度を変え、声のする方向に目を向けると、そこには30代位だろうか?もっと上にも見える痩せた男が焚き火の前に座り、串に刺したケバケバしい魚を頬張りながらこちらを見ていた。
瞬時に跳ね起き、距離をとると男に対して身構えた。はずだった。イメージの中では。
無様に砂浜に顔から転げた格好から、ゆっくりと四肢に力を入れて上体を起こす。全身がだるい。
「無理をしないほうがいい。まだ身体がうまく動かないだろうから。」
お腹が空いているだろう?男はそう言って立ち上がると、歩み寄ってきて手付かずの焼き魚を一本、差し出してよこした。
「毒は入っていない。安心するといい。」
一瞬躊躇し結局空腹に負けたボクに、「もっとも、そういう警戒心は私としても君に求める物のひとつなんだがね」と言って満足そうに笑った。
殺すつもりなら既にいつでも殺せたろう。毒は入っていない。そう確信し、勢い良くカリカリに焼けた魚の腹にかじりつく。
「げほっ。カハッ」
しかし身体が食べ物を受け付けず、思わず砂浜に吐き出してしまった。
今度は慎重にゆっくりと噛み砕いて何とか一口だけ飲み込むと、周囲を見回す余裕が出来た。
白い砂浜。抜けるような青い空。蛍光ブルーの海。
どこか、南方の島の砂浜のようだけれど・・・。そこに倒れていたということは、海から流れ着いたのかな?
「ここは、どこ?お前は誰だ?」
お前は誰だ?
お前は誰だ?
その質問が、頭の端に違和感となってこびりつく。
お前は・・・。
「その質問の前に、まずは君自身が誰なのか確認しようじゃないか」
ボク?
ボクは・・・。
あ・・・。あ・・きや・・・ま。
「・・・・あ・・・き・・・。アキヤマウネビ。」
「そう、良く出来ました。君はNinjaMasterタイゴ=アキヤマの一子、ウネビ=アキヤマ。君の故郷風に言えば秋山畝傍。」
男は嬉しそうに笑うと、仰々しく両手を広げた。
そうだ、ボクは秋山畝傍。とある島に建つ巨大な学園に通うくのいち。今朝だって、寮から学園に・・・。
寮から学園に・・・。
その後が思い出せない・・・。
ここは学園のあった島とは、やはり違う場所のようだ。
寮からでたあと、どれくらい経ったのか。何があったのか・・・。
・・・。
「さぁ、招待状をどうぞ、シンデレラ。」
男の声がボクを思考の渦から引き戻した。考え込んでいた時間はほんの数秒だったのだろう。男は、胸元からとりだした一通の四角い白い封筒を手渡す。
封筒には、秋山畝傍という宛名に667とナンバーが刻印されていた。立ち上がり、招待状を受け取る。
「ではさっきの質問に答えようか。」
「ここはね、王子様のお城なんだよ。ここで開かれる舞踏会では、7人の王子様の目に留まろうと皆が必死でダンスを踊るのさ。」
芝居がかった動きで架空のパートナーを相手にターンをする。
「君は、これから王子様の舞踏会に参加するんだ。」
男は踊りながらボクを指差して、続ける。
「そのドレスとガラスの靴は、魔法使いからのちょっとしたプレゼントだよ。」
身に付けているドレスは砂浜に打ち上げられたにしては海水に浸かった様子もなく、手甲に取り付けられた脇差は新品のようにみえる。
「さぁ、お城は向こうですよシンデレラ。」
いつの間にか隣に立ち、男は森の奥を指差した。見ると炊事の煙だろうか?砂浜に隣接するように茂る森の奥に細い煙が数条、空へ向かって上っている。人もかなりの人数がそこにいるのか、わずかに雑踏が聞こえてくる。
「お行き、シンデレラ。かぼちゃの馬車とネズミの従者は、あそこで見つけるがいい。一人では12時の鐘を迎えることも、難しいだろうさ。」
遠くなってゆく男の声に振り向くと、男は消え、そこにはただ主を失った焚き火が変わらずにパチパチと不規則な音を立てるだけだった。


